女の子パンチ 

朝起きて、寝ぼけていた。
天井の蛍光灯からぶら下がっている紐に、プラスチックのちいさなコマがついている。何気なくそのコマに左パンチを浴びせたら、左ひじから関節が擦れるような鈍い音がした。

これで、電気のヒモ・パンチャーの異名を取る、俺のボクサー人生も終了である。

殴り方が悪かった。ヒモとの間合いを短く取ってしまったため、不自然な角度でひじを曲げたらしい。パンチ自体は女の子がするような、なんじゃくストレートパンチで脇をしめなかったのもマズイかったようだ。

腕を確かめるようにさすりながら、女の子はなぜパンチするのか考えてみた。たくましいナイスガイたちはどうか知らないが、僕は良く女の子に殴られる。

体重とか、美容について、忌憚なき意見を披露するからであろうか?太った子には「太ったね」というだろ?「化粧へんなの」というだろ?世のオトコタチよ。

そんなとき。奴らは僕の言動を冗談ですませるに「いやだー」といいながら殴りかかってくる。目が真剣なときは避ける。

女子の場合、大抵は殴りなれていない。間合いが広すぎることがおおい。ボクシングで言うところのダッキング・・・後ろに下がるステップ・・を踏んで避けられるが、シャレで殴ってるときには素直に殴られたほうが良いらしい。

避けてしまうと、政治的にまずいことになる。奴らはいっぱつ殴っておけば、そこで冗談が完結する。女の子のちょっとした怒りは収まる。避けてしまうと怒りの捌け口は空転してしまい、女子にとってのストレスになる。女子のストレスは怨念として帰ってくる。キケンである。

これに気がついてから、敢えて殴られるようになった。
歌舞伎町の殴られ屋の気持ちが良くわかる。

女子のパンチは避けやすい。腕を振る動作からはじまるから、その時点で相手の間合いから出てしまえば避けられる。椅子に座っていたり、壁際でどうしても避けられないときには、思わずクロスカウンターで腕を出しそうになるのだが、できるだけガマンしている。

普通の女の子のパンチはそういたくない。悪意の無い冗談に対するパンチはたかが知れている。しかし、ときたま、僕の言動に憎悪を感じたと思われるパンチを食らうことがある。ずいぶん体重の乗ったパンチだなと思ったら、ボクシングを習ってる子だったらしい。

世の親たちよ。娘にボクシングを習わせないでくれ。いたい。