川に落ちる季節

都心の天気が良いからって全関東が暖かいとは限らない。中央の報道は気持ちのよい晴れと汗ばむ陽気をことさらに強調するけれど、水戸は最高気温が15度である。

外に出たくなくなるほど肌寒い。にわか雨を打ち込みにきた雲は真っ黒くて気圧の変化なのか体調もすぐれない。それでも無理をして外に出ると、用水と治水を兼ねたちいさな川は風景写真のちいさな撮影会場になっている。

川岸に座っていた若い女が急に立ち上がった。いつの間にか素足。右手にスマートフォン。岸辺の乾いた部分に左足乗せたまま、へっぴり腰で右足を探るように水面に落す。まもなく川底のぬめりに滑って尻餅をついた。白いジーンズが濡れた。

構造として、いちおう川に入れるように階段が設置されているけれど、入り口は柵で閉じてあるので、市の管理責任を問うて訴えを起こしても、原告の濡れた白パンツさんは勝てない。

下半身が固ければ、アーチ状に脚を開いたまま踏ん張れて倒れない。腰を落して左手を川岸のおりくちにある階段にでも掛けていれば転倒は防げただろう。右手にスマートフォンを持っているから、体を動かす意識のうち3割は右手に取れらている。もし、スマートフォンを階段に置いていたり、後ろ向きにそっと川底を探っていれば助かったのに。

もしくはミドリ安全の滑り止め付きの靴を履いたままなら、まだ肌寒い午後の夕方も、乾いた白パンツで過ごせたかもしれない。

彼女の連れが五人くらいいたのと、暇な私も観ていたからなんともないけれど、もし人目に付かない橋の下やら渓流で、頭でも打っていたら不審死である。太宰だって膝くらいの水深で死んでる。太宰は二度女を見捨てて助かったけれど、三度目は女が積極的だったから三途の川を越えたというのが定説である。