スキーと脳震盪

スキーのときヘルメットを被っていた時期があります。

そのときは珍しく友人と一緒に滑っていました。シーズンのはじめで雪が少ないゲレンデでは昼過ぎくらいに気温が上がり緩い斜面に雪解け水が流れていました。危険を知らせる通行禁止のポールは雪に刺さっていたのですが、雪は溶けてポールは倒れ、運悪く雪の溝に足を取られた格好で転んでしまいました。

受け身はとれず、したたかに側頭部撃ちを軽い脳震盪を起こしました。「トムとジェリー」でネコのトムが頭を打ったときに蝶々がくるくる回って目の焦点が定まらないときがあります。まさにあの状態。

薄手とはいえ帽子を被っていたのでそれがクッションとなり、意識が飛ぶまでには至りませんでしたが、危ないのですこし休憩して下まで降りた覚えがあります。ハンズフリーで滑ってましたので転ぶことはよくあるんです。そのあとも何度か危ない目には遭いましたが、危機感を感じたのはそのときだけです。

結氷した斜面で滑落したり、着地に失敗して森に頭からスライディングしたり、エアの途中で心が折れて急に怖くなって姿勢を崩しそうになったりとスキーにまつわるよくある危険は経験してきましたけれど、どれも不思議と怖くはありませんでした。幸い痛い目に合わなかったので転んで脳震盪のときが強く印象に残っています。あとは車のタイヤをロックしたまま50メートルくらい滑走したことはあるけれど、ああ、やってしまったなと諦観したものの車はぶつかっても痛くないので怖くないんです。

スキーの恐怖と縁遠いのは板が短くて高速がでないこと、それと、私が恐がりだからでしょう。

バイク便のライダーと一緒にすべったときはとてもじゃないけど追いつきませんでした。当時私は車の免許がないころでしたので私の知っている高速というのは自転車で出せる速度域です。それ以上は怖い世界でした。バイク便レーサーの彼は都内の狭い道や首都高速を私の知らない速度で走ってましたから速度の恐怖への耐性が強いのです。だから一緒にスキーで滑っても最高速が違うためいくら頑張っても追いつきやしませんでした。

バイク便ライダーですらこれですから、カーレーサーともなると時速300キロの世界です。スキーでもその速度までの耐性があります。